「俺は、奈緒が信じてくれていないとわかって、ショックやった。それで、一瞬、何もかもがどうでもよくなった」

奈緒は何も言わずに、ただ、聞いていた。

「俺はその子に誘われるままに、押し倒して、キスをした」

奈緒の目が大きく見開かれた。一粒の大きな涙が、彼女の頬を伝う。

「他の子と関係を持てば、忘れられるかもしれない。なんで、そんなこと思ったんかもわからんかったけど、あの時は本気でそう思った。奈緒を忘れようと思った」

奈緒の絶望にも似た表情が、胸をえぐる。
でも、今言わなければ、他の人の口から伝わったりしたら。それこそきっと、取り返しがつかないことになる。そんな気がした。

「でも、キスした瞬間、奈緒が俺を呼ぶ声が聞こえた。奈緒の笑う顔、それから、不安でたまらないと、泣いてた奈緒の顔も」

気づけば、俺の目から涙がこぼれていた。

「なんであんなことをしたんかわからん。そんなことしたら、奈緒に信じてもらえなくなる、軽蔑される、・・・嫌われる。わかりきったことやのに、なんでそんなことしたんか本当に、わからんかった」

少しの沈黙の後、再び話始めた。

「俺のしたことは、本当に、許されることやない。わかってる。けど、俺には奈緒しかおらん。奈緒じゃないとだめなんや。やから、そばにいてくれんやろうか」

そういった時だった。
奈緒が泣きながら抱きついてきた。突然のことで、びっくりして体が動かなかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

何度も何度も奈緒は謝ってきた。強く抱きしめながら、何度も。俺も、奈緒を抱きしめ返した。強く、強く。

「ほんとは、昨日、ピアスを見つけたとき、聞こうかと思った、けど、聞くんが怖くて、そのまま、なんにも聞けんかった」

泣きじゃくりながら話してくれる。

「今日、あの人がきて、ピアスのことを言ってるのがわかって、何がなんだかわからんくなった。泉君は何もないって、そう言うたけど、なんでピアスはベッドにあったんやろうって。そう思ったら、悪いことしか頭にうかばんくなって」

はぁはぁ、と息をしながら、奈緒は気持ちを聞かせてくれた。