奈緒の家に着いた。深呼吸をひとつして、家のチャイムを鳴らした。パタパタと走る音が、中から聞こえてきた。カチャッと鍵のあく音がした。
ドアを開け、中に入った。そして、何も言わず、奈緒を抱きしめた。
細くやわらかい体に、甘い香り。白い肌にピンク色の唇。さっき抱いた、愛の感触を消すように、ぎゅっと、奈緒を抱きしめた。

「・・・部屋に、行こうよ」

奈緒はこっちを見てくれなかった。
ズキン、と胸が痛んだ。

「あぁ」

玄関の鍵をかけ、靴を脱いだ。部屋に入り、俺は、奈緒の向かいに座った。
長い沈黙のあと、意を決して、奈緒に話しかけた。

「週末のことやけど、ほんとに、あの子とはなんにもなかった」

強い口調で、奈緒の目をまっすぐに見つめて言った。

「あの子が、俺の部屋で一緒に寝ようとしたきた。やから、俺は、あの子にベッドを渡して、リビングで寝た。多分、そのときに、あの子はピアスを落としたんやと思う」

奈緒の顔に、少し、安堵の表情が浮かんだ。ふぅ、と息を吐いた。
問題はここからだ。

「今日、奈緒に言いそびれたことがある」

ごくっとつばを飲み込んだ。

「俺は、奈緒のことを信じてる」

奈緒の目に涙がたまるのがわかった。

「そう、言おうとしたけど、あの子がきて、言うタイミングを逃した。その後、奈緒がうちを飛び出してった。あんときは、何で逃げたのかわからんかったけど。奈緒、俺のベッドで、ピアスをみつけたんやろ?昨日、うちにきたときに」

言われて奈緒の体が硬直した。

「俺は、奈緒のことを信じてる。けど、奈緒は俺を信じてくれなかった。そう思った」

奈緒の顔がどんどん悲痛な顔になっていく。

「あの後、あの子が部屋まで来て、ピアスを探した。ピアスを見つけた場所で、奈緒が何で出て行ったのかわかった。それと同時に、信じてくれてないってこともわかった」

奈緒の顔が下を向いた。

「奈緒」

呼ぶと、ふっと顔が上がった。肩を震わせ、必死で涙をこらえているのがわかった。