奈緒は、俺に、信じてほしいと言ったが、奈緒は、俺のことを信じてはくれなかった。
ショックで、頭がうまく働かない。

「泉さん?どしたの??」

愛が顔を覗き込んできた。

「ねぇ、どぉしたの?」

ぽふっと、泉をベッドに押し倒す愛。
ふわっと甘い香りがした。

「泉さん、私、泉さんのことが好き」

さらに甘い、猫なで声で、愛は囁いてきた。そして、軽くキスをしてきた。その瞬間、はっと我に返り、愛を突き飛ばした。

「な、何するんだよ」

口をごしごしとふく。
愛はにっこり笑って、泉に近づいた。

「ねぇ、泉さん。今、彼女いないんでしょ?私も、今、彼氏がいなくって寂しいんだ」

そっと首に腕を回してきた。
妖しい微笑を浮かべ、泉の肩に、顔を寄せた。

「寂しい者同士、お互い、慰めあいましょうよ」

甘く囁く誘惑の声。思わずのどがなった。
愛の腰に手を回し、そのまま愛をベッドへ押し倒した。そっと愛は目を閉じた。
柔らかい肌、奈緒とは違うが、甘い匂い。このまま先に進んでしまえば、奈緒のことは忘れられるだろうか。

そう思って、愛の唇に、自分の唇を重ねた。

『泉君』

重ねた。重ねてしまった。
その瞬間、奈緒が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
思わず愛から離れた。

「どうしたの?」

起き上がる愛。

『泉君』

にこにこと、恥ずかしそうに笑いながら、自分を呼ぶ、奈緒の姿が、愛の後ろに見えた気がした。

「泉さん?」

愛に呼ばれた瞬間、奈緒が泣き崩れた瞬間を思い出した。

・・・・怖かったと、不安でたまらなかったと泣き崩れた奈緒の顔を。