「じゃあ今夜約束してくれたら離す。…いい?」 「―――わかりましたから離れてください!」 一刻も早くこの状況から逃れたかった私は、そう精一杯叫んだ。 すると彼はぱっと離れて、その整った顔できれいに笑ってみせる。 「逃げるなよ。…じゃあな」 そう言うと、悠々とした態度で本社のほうに歩いていく。 私は、そんな彼の背中を見ているだけだった。 「………てか、名前も知らないのに…」