ありふれた恋を。


窓の外が暗くなり始めたのを見て、私は先生に挨拶をして部屋を出た。

この部屋も廊下も、シンと静まり返っている。


結局、雑誌は返してもらえなかった。


帰り際に先生が言った『伊吹によろしく』の意味を考えながら、1人廊下を歩く。


伊吹くんによろしく…?


雑誌のこと?

それとも口止め?


先生がどちらを望んでいるのかは分からないけれど、今は先生の話のことが気になる。


さっき、サッカーを辞めた理由を話していた先生の表情は、前に見た表情と同じだった。

前の彼女の話をしていたときと、同じだった。


サッカーと前の彼女。

この2つは、やっぱり繋がってる。


そのことが確信に変わったとき、ふと思い立ってスマホを取り出す。

お兄ちゃん、いるかな。

先生のことでお兄ちゃんを思い出していたら、なんとなく会いたくなった。


今年大学を卒業して社会人になったお兄ちゃんは、それと同時に独り暮らしを始めた。

家から会社までそんなに遠くないのにわざわざ独り暮らしをしているのは、ただ単に憧れていたかららしい。