ありふれた恋を。


静かな部屋に、先生が指で机をトントン叩く音だけが響く。

その空気があまりにも気まずくて、キョロキョロと視線をあちこちに飛ばしてごまかす。


トントントン…

トントン…

トン…

ト…



『俺はさ、』


机を叩く音を止めて、先生が口を開いた。

再び雑誌を開き、自分が載っているページをじっと見つめながら。



『俺は、小学生の時からずっと、サッカー一筋だったんだ。』

「え?」


先生は、まるで独り言のように自分の過去を話し始めた。



『最初は趣味程度だったのが、だんだん真剣になって、本気になって。気付いたときには自然とプロを目指すようになってた。』


ポツリポツリと話す先生は、教室で見る授業中の先生とは別人みたいだ。

だから、その先が明るい話じゃないことくらい、私でも簡単に察することができた。