ありふれた恋を。


「先生、心配しなくても大丈夫です。」


再び訪れた沈黙を先生が破る気配はなく、無意識にそんなことを言っていた。



「心配しなくても、私も伊吹くんも誰にも言いません。」

『え…?』


先生は、自分の過去を知られることを怖れてる。



「知られたくないんですよね?サッカーやってたこと。じゃなきゃサッカー経験ないなんて嘘つかない。」


図星だったのか、先生は私から目を反らして俯く。



「知られたくないことなんて誰にだってあります。だから、そんなに気にすることないと思います…けど?」


ちょっと偉そうな言い方になってしまったような気がして疑問形にすると、先生はフッと笑ってくれた。


本当は知りたい。

知りたくて知りたくてたまらない。

なのに、咄嗟に先生を慰めるようなことを言ってしまって、自分からそのきっかけを手放した。

先生の領域に踏み込んでしまったことが申し訳なかったから。


それと、先生がいつもと違うから。

いつもと違うと思ったあの日とも違うから。


先生が掴めない。


どれが本当の先生なのか、私にはまだ分からない。