『授業で分からない所でもあったか?』


どうやら先生は、私が授業のことで質問があると勘違いしているみたいだ。



「分からないっていうか、質問があるんです。」

『おう、教科書見せて。』


バッグから雑誌を出して、机の上に置いた。

先生は出てきたのが教科書じゃなかったことに一瞬不思議そうな顔をして、ページを捲る私の手元を見ている。


私があるページで手を止めると、先生の顔が驚きに変わり固まった。



「これ、先生ですよね?」


数秒の沈黙の後、先生が呟く。



『…そう、かもな。』


今にも消えてしまいそうな、とても小さな声だった。


悲しそうで、苦しそうで、どこか寂しそうな先生の声と表情を見て、私は気付いてしまう。


やっぱり、先生は隠していたんじゃない。

言わなかったんじゃない。

サッカーを辞めた、その理由も。過去も。


そして私は、先生のことを知りたいと思うあまり、絶対に聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと。