「だったら、戻るところはここじゃない。」
今度こそ、これが最後だと思った。
縛られ続けてきた過去がようやく終わる。
『ごめん…帰るね。』
『弘人さん、送って行ってあげて。』
疲れ切った表情で玄関へ向かう瑠未を夏波の声が呼び止める。
その言葉に耳を疑うような瑠未と俺の表情が重なった。
『いいよ、大丈夫だから。』
「いや、送ってく。」
この状態で瑠未を帰すことを夏波は素直に心配している。
そして、俺を信じている。
もう何も起きないと、だからこそ本当にこの関係を終わらせてきてほしいと願っている。
こんな俺を信じて傍に居てくれる夏波を心から安心させてあげられるように、俺はその気持ちに応えなければいけない。
「すぐ帰って来るから。」
背を向けて靴を履いている瑠未から隠すように夏波を一瞬だけ抱き締めると、離れたくないという気持ちでいっぱいになった。
俺が居る場所は、帰って来る場所は、今もこれからもずっとここだけなんだ。



