ありふれた恋を。


「先生!今の、今の聞かなかった事にしてください!お願いします!」


無意識に本音がこぼれてしまったことに焦り、更に変な空気にしてしまう。

こんなところで相手が先生だって気付かれたくない。

私に好きな人がいるってことはもう知られてしまったけれど…。



『ははっ、そんな慌てなくても、誰にも言わないよ。』

「はい…。」


私は1人告白してしまったかのようにドキドキしてるのに、先生はいたって冷静で。

まさにこれこそが“報われない片想い”なんだと実感する。

なんだか脱力してしまって、ヘナヘナと体を椅子に預けた。



『でも、幸せだな。』


先生は立ち上がって、窓の方へ歩きながら呟く。

幸せって…?



「片想いのどこが幸せなんですか。」

『いや、そうじゃなくて。有佐に想われてるなんて、そいつ幸せだなと思って。』

「え?」


先生はまたなんでもない風に言って、だけど私に背を向けているからその表情は見えなくて。

私の鼓動だけが、うるさいくらいに大きな音を立てていた。