ありふれた恋を。


『誰か居るの?』


玄関に置かれている明らかに俺のものじゃないスニーカーを見た瑠未がリビングの方へ顔を伸ばす。



「帰ってくれ。」

『彼女?』

「頼むから。帰ってくれよ。」


絞り出すように出した声はほとんど声にならなくて、靴を脱いで部屋へ上がろうとする瑠未の腕を掴むことしかできない。


なぜなんだ。

なぜ俺を巻き込むんだ。

いつまで俺は瑠未に振り回されなきゃならないんだ。



『離して。』


背後から聞こえてきた小さな声は、震えがちだったけれどとても強い意志があった。



「奥で待ってて大丈夫だから。」

『弘人さんの手を離して。』


俺の声を遮って夏波が言う。

その言葉は俺ではなく瑠未に向けられている。



『え、これが彼女?』


鼻で笑うような瑠未の声に寒気がして一瞬手の力が緩み、その隙に瑠未が夏波の前に出た。

よく着ているロゴパーカーにスカート姿の夏波と、とても普段着とは思えないワンピース姿の瑠未。

一瞬不安げに俺を捉えた夏波の視線に、同じように不安げな視線しか返すことができない。