ありふれた恋を。


「ただいま。」


帰宅すると部屋には灯りが点いていて、良い香りが漂っている。

夏波が来ていることを示すその合図に、1日の疲れが吹き飛ぶようだった。



『おかえりなさい。』

「ただいま。」


リビングのローテーブルに教科書やノートを広げて勉強していた夏波が顔を上げる。



『今ちょうどご飯温めたところだよ。』

「ありがとう、すぐ食べたい。」


夏波は嬉しそうに立ち上がってキッチンへ向かう。

その背中を見る俺の顔もさぞ嬉しそうだろうなと思いながら部屋着に着替えていると、インターフォンが鳴った。



「誰だろうな。」


熱々のスープをテーブルに運んできた夏波の頭にポンと手を置いてから玄関のドアスコープを覗くと、そこに立っていた顔に言葉を失った。



『どうしたの?』


しばらくドアの前から動かない俺を心配したのか夏波が様子を見に来る。

大丈夫だから、戻ってて。

そう言おうとした俺の声よりも先に、『開けて』という声が聞こえた。