ありふれた恋を。


そっと力を緩めて腕をほどいた弘人さんが、ほとんど崩れ落ちるようにソファーに座る。



『前の彼女に会った。』

「知ってる。瑠未さんでしょ?」


私が答えると弘人さんが弾かれたように顔を上げる。

その隣に座り、私はお兄ちゃんから聞いたことの全部を話した。

お兄ちゃんは怒り心頭で別れろと言っていることも。



『そうか…』


お兄ちゃんに見られていたことは全くの予想外だったであろう弘人さんが言葉を失くしたように黙る。



「なんで会ってたの?瑠未さんと。もしかしてずっと連絡とか取り合ってたり」

『してない。連絡先も消してたし、夏波と出会ってから本当にもう気持ちはなかった。』


最後まで言い終える前に弘人さんが遮る。


気持ちはなかったけど、偶然同級生と再会して瑠未さんの現状を聞き、少し頭に浮かんでくるようになっていたこと。

知らない番号からかかってきた電話に出ると瑠未さんからだったこと。

心配する気持ちを振り切れずに会ってしまったこと。


そのひとつひとつを、弘人さんは丁寧に話してくれた。