ありふれた恋を。


「ありがとう。今まで本当に。私の中途半端な態度で迷惑かけてごめんなさい。」

『やめろよ、今回振り回したのは俺だし。でも…』


少しためらった後、伊吹くんは伊吹くんらしいまっすぐな声で言った。



『もし先生とダメになっても、もう俺は待ってないから。』


2人とも、もう絶対に友達には戻れないことを分かっていた。

これは、伊吹くんからのとても大きくて優しいエールだ。



『後悔すんなよ。』

「うん。ありがとう。」


冷たい風が頬に当たって、流れたばかりの涙を乾かす。


もう揺らいだりしない。

弘人さんの中に瑠未さんが残っていたとしても、私は私の想いをちゃんと伝える。


弘人さんを傷付けた人に、絶対負けたりなんかしない。


ベンチから立ち上がり弘人さんの部屋へ戻ると、今度は部屋に灯りがついていた。



『夏波。』


はっとしてリビングへ急ぐと、私以上に切羽詰まった顔の弘人さんが駆け寄ってきて、そのままぐっと私を抱き締めた。