「帰る。」
『送ってくよ。』
その一言に、お兄ちゃんは実家へ帰ると勘違いしたようだ。
「大丈夫、1人で帰れるから。」
『でももう遅いし。』
「1人になりたいの。」
思いもよらず意思の強い声になった。
弘人さんの部屋へ帰ろうとしていることを悟られないよう必死だった。
渋々了承したようなお兄ちゃんを置いて部屋を出る。
弘人さんの部屋の前に立ち、しばしためらう。
今顔を合わせてどうするの。
ごめんやっぱり瑠未の方が好きだなんて言われたらそれで終わりなのに。
でも、ちゃんと向き合うと決めた。
ぐっとドアノブを掴む。
私には、これまでにもらってきた言葉がある。
しっかり愛されていると、疑いもなく信じられた瞬間がある。
その一瞬に、今はすがるしかない。
ドアを開くと部屋はまだ暗いままで、私は再びドアを閉めた。
弘人さんより先に、話さなければいけない人がいることに気付いて。



