ありふれた恋を。


「嘘。嘘だよそんなの。だいたいどうしてお兄ちゃんがそんなこと知ってるの。」

『俺だって嘘だって思いたいよ。でも見たんだ…さっき。』


そこまで言って、お兄ちゃんは気まずそうに顔を背ける。

もう何だって良かった。

本当のことを知りたい。

弘人さんが帰って来なかった理由を知りたい。



『綺麗な女の人と一緒に居た。瑠未さんの顔は知らないけど、そうだと思う。』

「顔知らないなら分かんないじゃん。」


だけど私の最後の望みなんて簡単に崩れてしまう。



『キスしてたから。』


もう何も出て来なかった。

息をすることさえ忘れてしまったみたいに胸が詰まって苦しい。



『待ってたんだろ?弘くんの部屋で弘くんが帰ってくるのを。でも弘くんは夏波を待たせて前の彼女に会ってキスしてたんだよ。』

「やめてよ。」


本当のことなんだろうと思う。

お兄ちゃんが言っていることは全部、本当に起きたことなんだろうと分かってる。

でも、今ここには居ない弘人さんを責めるお兄ちゃんから、弘人さんを守ってあげたいという気持ちが強く湧き上がる。