「どうしたの?」
『夏波、今どこに居る?』
落胆を悟られないように聞くと、お兄ちゃんの声の方がずっと固いことに気付く。
「お兄ちゃんの…部屋。」
なぜかとっさに嘘をついてしまったのは、待ちぼうけをくらっているこの状況に引け目を感じたからだろうか。
『弘くんの部屋だろ。』
「え?」
『俺あと5分くらいで帰るから、俺の部屋で待ってて。』
だけどそんな嘘はあっさりと見破られて、有無を言わせぬ口調でそう指示される。
わけが分からないまま、冷めてしまったご飯にラップもかけずに立ち上がった。
『ただいま。』
お兄ちゃんは本当にすぐに帰って来て、笑顔でそう言ったけどその顔は引きつっていた。
こんな顔を見せられたら、何かあったのかという不安が確信に変わってしまう。
「お兄ちゃん、大丈夫…?何か温かいものでも淹れようか。」
『いいから、座って。』
スーツのネクタイを緩めながら、お兄ちゃんは疲れ切った表情でよろよろと座りこむ。