「結婚したんだろ。早く帰れよ。」
画面を見なくても、それが夏波からだろうという確信があった。
今1番不安で心細い想いをしているのは他の誰でもない夏波だ。
『知ってたんだ。』
小声で呟く瑠未が右手でそっと左手を隠す。
その薬指に指輪はない。
俺が知らなかったら、騙せるとでも思っていたのか。
『どうせ旦那さん全然帰ってこないし、帰って来てもすぐ寝ちゃうし、絶対他にも女いるし。』
「知らねぇよ。」
賢太の話を聞いたとき、瑠未の中にこれで仕事が増えるという打算があったのかと思った。
だけど今サラっと言った“旦那さん”という声に愛情が透けて見え、また俺の声にトゲが出る。
『冷たいね。弘人じゃないみたい。』
「いつまでもあの頃のままの俺だと思うなよ。」
バカみたいに瑠未が全てで、持てる優しさは全て瑠未に注ぎ込んでいた頃の俺。
同じように俺のことを好きでいてくれると信じて疑わなかった。