ありふれた恋を。


瑠未が待っていたのは、学校近くのビルの地下にあるバーだった。

奥の席に座りカクテルの入った細いグラスをもてあそんでいる。



『弘人。』


俺に気付いて立ち上がった瑠未は、あの頃の面影を残したまま、向き合うことに怯みそうになる程綺麗になっていた。


会うべきじゃなかった…そうすぐに後悔する。

その顔が、疲れと寂しさと苛立ちに溢れていたから。



『飲まないの?』


注文を取りに来た店員にウーロン茶を頼むと、瑠未が不満そうに漏らす。



「すぐ帰るから。家で彼女が待ってる。」

『へぇ…。』


真っ先に言ったのはこれ以上そっちへは行かないという意思表示のつもりだった。

でも瑠未の顔が分かりやすい程ざっくりと傷付いたものになり目を逸らす。



『私は誰も待ってないよ。』


俺がここに来るまでどれだけ飲んだのか。

瑠未からはうっすらとお酒の匂いが漂っていた。

その匂いに気付かない振りをして、ジャケットのポケットの中で震えるスマホに気付かない振りをする。