『今、弘人の学校の近くまで来てるの。』
学校まで知っていることにもう驚きはしなかった。
どうせ同級生に無理言って聞き出したのだろう。
「会わねぇよ。会うわけないだろ。」
怒鳴ってしまいそうになる気持ちを必死に抑えて冷静な声を出す。
気付かれたくなかった。
久しぶりにその声を聞いて一瞬でも心が過去へ引っ張られたことを。
『忙しいなら今日じゃなくてもいいの。いつでも連絡して。』
「頼むから、もう俺に関わらないでくれ。」
『待って。』
スマホを耳から離して切ろうとした指をその声が呼び止める。
押せ。
たった1度、軽く画面に触れるだけでこの電話は切れるのだから。
『お願い…見捨てないで。』
あのとき俺を見捨てたのはお前だろ。
人生で1番傍に居てほしかったときに、真っ先に切り捨てたのはお前だろ。
「どこに居んだよ。」
なのに、なぜ。
どうして俺は見捨てられないんだ。
部屋でひとり待つ大切な彼女を残して、どうしてこんな元彼女の元へ行ってしまうんだ。



