「これからの俺を知っていくのも、夏波だけだから。」


今腕の中に居るこの子を、絶対に放したくないと思った。



「だから、これからの夏波を知っていくのも俺だけで居させてほしい。」

『うん。』


こんなにも自分だけの存在にしたいと思う人は初めてだった。

腕の中でうんと頷いた夏波の髪を撫でる。


さっき使ったばかりの、同じシャンプーの香り。

いつの日かそれが当たり前になるように、今この毎日を大切にしたい。



『先生、居なくならないでね。』

「ならないよ。」


どうして夏波がこんなことを言ったのか、“先生”と呼んだのか、そこに隠された不安に俺は気付けずにいた。


ならないよ、簡単にそう言っただけで。



初めて2人で出かけた場所で、手を繋いで眠ったこの日に思ったことを俺はずっと忘れないだろう。


全部全部、心からの本当の気持ちだった。


そこに嘘はなかったはずなのに。


言葉なんて結局、形を残さず言ったそばから消えていくものなのだろうか。