そのとき俺の頭の中に浮かんでいたのは、瑠未の顔だった。

夏波と出会い薄くなっていたその存在は、夏波の中でどんどん大きくなっていた。


過去を、忘れたい人を、俺は夏波に押し付けていただけだったのか。

俺の心が軽くなった分だけ、夏波はそれを抱え続けてきたのかもしれない。


だけどそのことを夏波は俺に言うつもりはなかったはずだ、絶対に。

それでもひとりで抱え切れない程に大きくなった想いが溢れてしまった。


夏波が今どんな想いでいるのかと思うと胸が張り裂けそうなくらいに痛かった。



「ごめんな。」


何か安心させてあげられることを言ってあげたいと思うのに、結局こんなありきたりな言葉しか言えない。



「今の俺を知ってるのは夏波しか居ないよ。」


そう言い終わるより先に、ソファーから立ち上がった夏波が俺の胸に飛び込んできた。

強く強く、ぎゅっと俺にしがみつく夏波をありったけの想いを込めて抱き締める。