ありふれた恋を。


『そんなこともできないですよね?どこかの誰かさんだったら。』


向けられた目は、もうまっすぐなものではなかった。

心から俺を責めるような、射るような視線。


その目を逸らす資格なんて、俺にはない。



「あぁ、できないよ。」


ごまかすことなんてできるはずがなかった。

怪しまれたときは和哉の名前を出せば良いと話し合っていたことなんてすっかり抜け落ちている。


そして伊吹にだけは嘘をついてはいけないと、心がそう言っていた。



「なんで知ってる…?」

『好きな人が誰を見てるかなんて、その子をずっと見てたら分かるもんですよ。』


先程の鋭い視線をふっと弱めて、俯きがちに漏らす声はとても柔らかかった。



『だから倉島だって気付いたんじゃないですか?あいつはあいつで弘人先生のことずっと見てるから。』


俺に有佐と仲が良いと言った倉島。

有佐に俺か伊吹のどちらかにしろと言った倉島。