生憎、保健の先生は不在だった。
しかし女の子は私に座るよう言って、棚を漁っている。
「座って待ってて。消毒してあげるから」
「えっ、あの」
「私、夏目薫。一応同じクラスなんだよ」
薫は笑顔で振り、自己紹介をした。
同じクラスだったのか。
少しホッとしていると、薫は手際よく消毒してくれる。
大きな絆創膏まで丁寧に貼ってくれた。
「よし!完璧」
「ありがとう」
お礼を言うと薫は笑顔で頷く。
「あの夏目さん。さっきの見てた?」
恐る恐る聞いてみる。
見られて気分の良いものじゃないだけに、気まずい思いはぬけない。
しかし、薫はさっぱりと答えた。
「ゴメンね、見てたよ」
あぁ。やっぱり。
「助けようかなって思ったら、言い返しててさ。悪いと思いつつ、最後まで見てた」
その笑顔は悪気がなさそう。
「あの、雨宮伊織には黙っててくれないかな?」
そう言うと薫は片方の眉毛を器用にあげた。
「いいの?もとはといえば雨宮が原因でしょ?」
「そうだけど、なんかちょっと知られたくないというか」
伊織に心配かけたくないとかそんな可愛いことではない。
ただ言って、無反応にされたらと思うとそれが辛いと思ったのだ。



