『わかった。もういいよ、わかったから。言われた通り、結婚するから』
私が口を開くまで二人は頭を下げていた。
雨宮社長が何故そんな条件を出したのか。
何故、こんなに早く結婚するのか。
何故、私が選ばれたのか。
こんなこと有り得ないし、考えられない。
お金持ちの考えはわからない。
わからないことだらけだけれど。
ひとつだけわかっているのは、この政略結婚はもう決定事項だと言うこと 。
父の会社と、何千人という社員の生活、運命がこの結婚にかかっているのだ。
そして、我が家も。
だから私には拒否し続けることが出来なかった。
『好きな人や彼氏がいなくて良かったー。それにあの伊織って人も結構イケメンだったし、棚ぼたかもよ』
いつまでも私に頭を下げる両親に向かって、そう明るく返した。
そんな私に安堵の表情を見せる。
そう言うしかなかった。だって両親のこんな姿をもう見ていたくはなかったから。
娘にひたすら頭を下げる両親なんて、見たくない。
そして、本当は婚姻届は直筆で書かないといけないと言われ、震えそうな手に力をいれて…………
自分で婚姻届に名前を書いた。