だが今は、その仮説を口に出してあれこれと思案するべきではない。




「…とりあえずは、通り魔の方から片付けるしかないな。」



「それが今やれるべき事だからね。」




紅茶を飲み干し、ソファを立って




「蘭子、私と白馬は通り魔事件について聞き込みをしてくるよ。情報を提供してくれて感謝するよ。」



「蘭子は紅葉ちゃんの役に立てただけで天にも昇る勢いですわ!!」



「……ほどほどにな。」



言って、胡桃沢に会釈をして紋部家を出た。




「さて…とりあえず通り魔事件の被害者をあたってみるか。」


「それなら紋部さんが提供してくれた書類に書いてありますよ。事件の詳細も書いてあるし。」




わざわざ聞き込みなんてしなくても…
と言う白馬。




「聞き込みというのは情報収集だけじゃない。対象者の反応も立派な鍵になるんだよ。」



「…鍵、ですか?」



“事件というのは宝箱のように一つの鍵だけではひらけない。


事件という箱を開けたいのなら散らばった鍵を一つずつ鍵穴に差し込むことだ。”




「ー‥父さんがよく言ってたんだ。」




小さい頃はよくわからなかったがな。




「‥事件はキラキラした宝箱なんかじゃなく、パンドラの箱みたいなものですけどね。」



「全くだな。」




私はこの時、少しトーンの落とした声の白馬の顔を見てはいなかった。