紳士と淑女の推理紀行






ニャァ、と一音鳴いた黒猫が足下にすり寄ってきた。




「…やれやれ、怒られちゃったね」




そのまま汚れるのも構わず玄関に座り込み、
寄ってきた黒猫の喉元を撫でる。




ゴロゴロと喉が鳴る黒猫を眺め、少しだけ口角が上がる。




「…嫌われちゃったかな。」




上げた口角もそのまま維持できず、元にもどる




髪を掻きあげ、そのまま片手で目を覆う。




ゴツンと壁に頭がぶつかる。




『私の事を知ったように言うな。』




そんな彼女の言葉が頭の中に反復する。




「…っ、そりゃアンタは知らねぇよ…」




彼女を知っているのは自分だけだ。




彼女は自分を知らないのは当たり前だ。




当たり前なのに、その言葉がどうにも気にくわなかった。




途端、膝に重みがあり、手をどかして見ると黒猫が器用に自分の膝にのっていた。




茶色だが、
光に当てると黄緑色の瞳



その瞳には親しみがある。




黒猫にじぃっと眺められるのは微妙な気分だ。




「…わかったよ」




黒猫に喋りかけるのも妙なものだ、と思ったが妙な気持ちのまま腰を上げた。