ピピピピピ‥
「………」
無機質な音の目覚ましを止めて、重い身体をあげる。
カタン‥
と音を立てて開けたのは机の引き出し
「‥紅葉、か」
手に取ったのは紅葉の栞
コレには淡い思い出があった。
***
本日は誠にー‥
御冥福をー‥
小さい私には何を言っているのか解らなくて、
わかるのは、両親が帰ってこないという事だけだった。
『…紅葉?どこに行くんだい?』
『お庭行く』
祖父の手を離して、黒い服を着た人たちから離れた。
縁側に座って、庭を見る。
足をぶらぶらと揺らしながら空を見る。
空はいつも通り青くて、何も変わってない。
ちょっと視界がぼやけて、瞼に雫がついた。
『……!』
その日は快晴で、雨なんか降っていなかった。
『……ふっ…ぇっ…』
なのに瞼にだけ雨が降り注いで、
やまない雨が嫌いになった。
カサッ‥
木々の揺れて葉音がした。
風なんか吹いてなかったから不思議に思って顔を上げた。
サァッー‥
紅い紅い
たくさんの紅葉が降ってきた。
庭の塀の向こうの木は紅葉じゃないのに
なんで
紅葉が
『…お父さん?お母さん?』
幼い私は、両親が私をなだめるために来てくれたのかと思った。
落ちてきた紅葉を一葉手に持って、
今日までずっと、持っていた。
***
「懐かしいな‥」
あの日、私が救われたように、
白馬にも、救いがありますように
それだけが、今の私の想い


