ふいをつかれて、私は一瞬手を振り払おうした。
だけど強引な力強い手がそれを阻む。
ぎゅっと強く握られて、私の手は拒むことを諦めた。
彼は私を力強く引き寄せると、頭を抱き寄せた。
予想不能なその行動に、私の方が慌てる。
そんな私の耳元で余裕の彼はそっと囁いた。
くするぐように甘くぞっとするような色っぽい―――低い声。
「俺ね、好物はあとにとっておくたちなの。だから今は急がない」
彼の言葉が何を意味するのか分かっていた。
だけど私は何も返せなかった。
目を開いて唇を結ぶと、彼が感触を確かめるように私の薬指にはめられた指輪の辺りをなぞった。
ぞくり、と悪寒にも似た快感が指先から全身を駆け抜ける。
「欲しいものは全力で奪う。それがたとえ人のものでもね」
低く囁いた言葉には、甘い笑みが含まれていた。
「危険な考えね。いつか身を滅ぼすわよ」
本心だった。
でも、こんな不条理なことを、堂々と言い切る彼が
同時に羨ましかったのだ。



