大将は私のことを咎めているようではなかった。あの様子からしたら、下卑た想像もしていないだろう。
かといって応援しているわけでもない。
ただ黙って、その笑顔の下で私に警告を促していた。
“深入りするな”―――と。
「あの大将…かなりのくせものね。敵に回したくないタイプ」
タクシーの中でちらりと零すと、
「だろ?でも味方につけると最強だぜ?しかも慣れるとあれが癖になるんだ♪」と啓人は楽しそうだ。
危なっかしいぼうやだこと…
私は小さく吐息をついた。
「家はどこ?送ってくよ」
何の迷いもなく啓人はさらりと答えた。
「ああ…白金の……」と言いかけたことろで、言葉を飲み込んだ。
今日はこのまま帰るつもりなのね。
期待してた…なんて思う自分が恥ずかしい。
「…白金台駅の近くでいいわ。そこから歩いて帰る」
「近くまで送ってく。危ないよ~」
啓人は私の微妙な言葉に気づいていないようだった。
本当はまだ一緒に居たい。
そう思ったけれど、そんな本心口が裂けても言えない。
彼が初めて女を連れて行くという、いわゆるテリトリー内にあっさりいれると思いきや、その後は同じようにあっさり手を離す。
これが彼の手なのかしら。
押したり引いたり、駆け引きは得意だった。
マダム・バタフライのときに身に着けた技だ。
相手のペースに巻き込まれてはだめ。自分のペースに持ってこなきゃ。
だけど私は
やっぱり彼のペースに乱される。



