Addict -中毒-



結局店には23時近くまで居た。


大将を交えての話は当たり障りのないもの。


釣りが趣味だという大将の話に、「この前釣ったばかりの鯵もらったんだ。刺身にしたら超うまいの♪」なんて啓人が答えていた。


そのとき私は彼が魚をさばけるほどの料理の腕前を持っていることに驚かされた。


若いのに珍しいわね、なんて言うと、高校生のときに母親が家を出て行って両親は離婚。それから家事は一通りできる、とのことだった。


案外苦労人なのね。


なんてちょっと同情もしたけど、彼はそんな苦労微塵も見せずにあっけらかんとしている。


底抜けに明るい男だ。


野球が趣味で、たまに休みの日に社会人野球の試合に参加してること、


私が旅行の話を聞かせると、彼は「出張目的じゃなく行きてぇな」なんてぼやいていた。


彼の仕事は主に中国、韓国近辺などのアジア圏を中心に相手どっている、ということが分かった。


この前空港で見たのも、中国からの出張の帰りだったわね、確か……


ただの営業―――なんて言ってたけど、営業員が他国に出向くかしら。


そんな小さな疑問を抱えつつも、


時間はあっという間に過ぎていった。


啓人が会計を済ませると…(私も払うと言ったけれど、彼は「誘ったのは俺だから」と言って笑い、スマートに財布を出していた)


「奥さん」


と大将が私を呼び止めた。


「携帯、忘れてるよ」


大将はにこにこして私に携帯を手渡してくれた。


「どうも」なんて言って受け取ったけれど、私は大将の少しも崩れない笑顔を見て、目を開いた。



蒼介と結婚して二年。最初は慣れなかったのに最近『奥さん』と呼ばれることに何の違和感も覚えなくなった。


反射的に返事をしてしまって




受け取った手のひらを見ると


薬指で指輪が光っていたのだ。