大将の作る料理はどれも絶品だった。
まるで高級料亭のような華やかな見た目に、それを裏切らない上品な味付け。
聞けば京都の老舗料亭で長年勤めていたらしい。いっときは料理長まで昇りつめるほどの実力を持っていながら、あるときその料亭を辞めた。
「生まれがこっちだし、ちゃきちゃきの江戸っ子だからなぁ。元々いつかこっちに店構えたいと思ってたんだ」
と大将は人懐っこい笑顔で答えてくれた。
「夢が叶ったのね。素敵だわ」
私の言葉に大将は少しだけ頬を緩ませて笑った。
「夢って言っちゃかっこいいが、そんなもんじゃねぇな。
あんときの俺は若くて、衝動的で、向こう見ずだった。
何でも出来る気がしたし、それが思い上がりだって気付いたのは店を辞めて半年後のことだった」
何かの野菜を七輪の網の上で転がしながら大将は自嘲気味に笑った。
「へぇ、おやっさんもそんな時があったんだな」
啓人が意外そうに瞬き。
「お前みたいなクソガキだったんだよ、俺ぁ」
大将は啓人の方を見て意地悪そうにニヤリと笑みを浮かべ、
「まぁ今となっちゃ、あの衝動も良い経験だったんだな。
って思えるが、そう思えるまで長かったな。
でも後悔しても仕方ねぇしな、こうと決めたら突き進むしかねぇんだ。
人生一度きりだしな。
楽しまないと損だ」
大将の言葉は心地よく胸に落ちた。
この人は選択することを、恐れていない。
いつだって自分に正直で、選択した後もその結果を恨んだりしない。
だからこのお店は大将のまっすぐな情熱が伝わってきて、どこか温かいのだ。
『家庭的』そう感じたのは、いつでも帰って来られる。
この人が受け止めてくれる。
そんな風に思えるから。



