佐々木くんとは、五反田の駅前で別れた。
「あいつんち、この近くなんだわ。だから無理やり一緒に来たってわけ」
「可哀想な佐々木クンね。こんな上司に振り回されて」
口ではそう言ったけれど、佐々木くんの啓人に対する態度は心から嫌がってはいなかった。
むしろ親しさを滲ませた、仲のいい兄弟、それか何でも打ち明けられる親友って感じだ。
上司と部下と言う、独特な上下関係は微塵も見られなかった。
バカにされてるというわけではない。むしろ慕われている、と感じた。
「いい部下を持ったものね」
「あ?佐々木のこと?紫利さんあーゆうのがタイプなの??やめておけよ。あいつ純粋だから」
「またすぐあんたはそうゆうこと言って」
唇を尖らせると、彼は「へへっ」と笑ってさりげなく手を握ってきた。
「ちょっと」と咎めるも、全然いやな気がしない。
むしろ嬉しかった。
「俺、手繋ぐの好きなんだ。腕組むのも肩抱くのもいいけど、手繋ぐってのが一番恋人同士っぽく見えね?」
人懐っこい笑顔を浮かべて、彼は私を覗き込んできた。
その可愛い笑顔で、またも心臓が音を立てる。
「どうせ他の女にも言ってるんでしょ?」
「ははっ。バレた~?」
彼は笑った。
手を振りほどきたい衝動に駆られた。
他の女と一緒にしないでよ!
そう叫びだしたかった。
だけど意思とは反対に、私は彼の手を握り返していた。
この温かい体温を手のひらいっぱいに感じていたかった。



