「この人大事な約束があるからって、何故か同じ駅だって言う理由で僕を急かしたんですよ?」
と、佐々木くんは迷惑そうに啓人を睨み上げて、そして私に視線をやる。
大事な約束……
そう言ってくれたことに、ちょっと嬉しさを覚える。
「取引先の接待かと思いきや、デートだったですね。あ、ごめんなさい。遅れたのは僕のせいなんです」
佐々木くんは申し訳なさそうにして律儀に私に頭を下げた。
「いえ。そんなに待ってないわ。それにデートって程でもないし」
それは私の小さな強がり。
啓人のペースにはまりたくなくって、わざと否定した。
啓人は残念そうに眉を寄せると、
「え?デートじゃないの?」と聞いてきた。
「え?彼女さんじゃないんですか??僕てっきりそうだと…あんなに急いで帰り支度してる部長を初めて見たし…」
佐々木くんの言葉が嬉しかった。
いかにも真面目で実直そうな人柄は少し蒼介に似ている。嘘をつけないタイプだ。
同時に一つひっかかったことがある。
「“部長”?」
・ ・
「ええ。一応は僕の部署の部長です」
佐々木くんは疑わしそうな目つきで啓人を見上げた。
「名前だけね」啓人は軽く笑ってはぐらかす。
部長と言うからには、部署の長だ。
見た目はそんな素振り少しも見せないのに、彼はデキる男なのかしらね。
それ以上深く聞いて欲しくなさそうだった。だから私は疑問に思ったことを敢えて聞かなかったし、このときの疑問を
心の中に封じ込めたのだ。



