一瞬幻かと思った。
この若いナンパ男たちの言う通り、私はすっぽかされたんだ、と半ば諦めのようなものを考え始めていたから。
啓人は見知らぬ若い男の子を連れていた。こちらもスーツ姿。
「お知り合いですか?」と若い男の子は気弱そうに啓人を見る。
彼はそれに答えず、にっこりと笑みを湛えた。
「びっくりした。今日は着物じゃないんだね」
「え…?ええ…」
「ところで」と言って、啓人は人懐っこい笑顔から一転、笑みは浮かべているものの険を含んだ瞳でナンパ男たちを見下ろした。
口元は笑っているのに、目が笑ってない。あの、射る様な独特の冷たい視線。
「あんたら誰?」
「えっ!いえっ。あまりに綺麗だったもんでちょっと声を掛けただけで」しどろもどろに言って彼らは逃げていった。
「バーカ。お前らにこんなイイ女を渡してたまるかよ」
べっと舌を出して、啓人は彼らの後姿を見送っていた。そしてすぐ隣に若い男の子が居ることに気づくと、
「おぅ!佐々木。じゃな。俺、今からデート♪」と言って私の肩を抱いてくる。
遅れてきたのに、何事もなかったかのようなその振る舞いに私はちょっと苛々して、彼の手の甲を軽くつねった。
「あんたね。遅れてきたんだから、謝るぐらいしなさいよ」
「あ。そっかー。ごめんね?」彼がちょっと腰を屈めると私を覗き込む。
その可愛い笑顔に、思わず何でも許してしまいそうになる自分が居る。
そんな自分を否定するかのように、私は彼の隣でどうすればいいのか分からないと言った、見るからに純情そうな佐々木クンの方に視線をやった。
「あなたの…お友達?」にしちゃ歳が離れてる気がするけど。
「いんやぁ。後輩??」と言って佐々木くんを見る。
「いえ。部下です」ときっぱり言って佐々木くんは啓人を睨み上げた。



