Addict -中毒-


―――

高校を卒業すると、私はすぐに東京に上京した。


上流階級のセレブたちが御用達にしている高級クラブで働いて7年、№1の座を獲得し、その三年後、クラブのお客だった藤枝 蒼介(フジエダ ソウスケ)と結婚した。


彼は私より20も年上で、当時48歳。


バツ一だった。



青白い肌と血色の悪い薄い唇、こけた頬。鋭い眼だけかぎらりと光り、眉間には深い皺が寄っている。


背は高いほうではなく痩せぎすで、あまり健康そうではなかった。


話上手でもなく、口下手でいつも下ばかりを向いて居そうな…どちらかと言うと暗い人。



―――あの、名前も知らない歳若い男とは180度違う男だ。



蒼介は大学教授だというのに、その華やかな立場を自慢する風ではなかった。


研究室にこもって一日中マウスやラットを相手にひたすら研究に明け暮れてるのが、性に合っているとも言っていた。


最初の一回目は、医学部長に無理やり連れてこられて、という感じで楽しくなさそうにお酒を飲んでいた。


あまりお酒に強いほうでもなく、すぐにソフトドリンクに変えたことも覚えている。


不器用で、無口。だけどそんな控えめな彼が、研究の内容を語るときは、まるで小さな少年が夢を物語るかのようにキラキラと輝いていた。


医学部長や、彼に連れられた教授陣は蒼介のことを「変わり者」と笑い飛ばしていたが、私はそんなこと思わなかった。


私はそんな彼の控えめな笑顔に少し惹かれていたのだ。


彼は次から独りで来店するようになった。


こんなお店に来慣れていないのか、彼は酷く居心地が悪そうだったけれど、私が話しのお相手をしているとき、彼は乏しい感情の中で精一杯笑顔を見せてくれていた。


堅苦しいお世辞や、駆け引きに疲れている毎日だったから、そんな彼の反応が新鮮だった。


何より、彼の隣でお喋りをしているとき、私の気持ちはひどく楽だった。



その年の夏―――






彼が始めてアフターに誘ってくれたとき、彼は私に一輪の花を手渡してくれた。




月下美人だった。



夏の夜のたった一晩しか咲かない白くて大きな花。