Addict -中毒-



それはマダム・バタフライにとっても悪い話じゃない。


顧客でない大物の人間たちも、一気に取り込むことが出来る。


だがしかし、そうなるとマダム・バタフライ側も、場慣れしていない新人ホステスなどを連れて行くわけにもいかない。


美人なのはもちろんのこと、キャリアがあり、話上手。上品であり、常識が備わっている女が必要ということで、ママはその人材集めに四苦八苦している、という話だった。


そこで店を辞めた私に声が掛かった。


「月香なら申し分ないわ。上物のお客様にも失礼がないようしっかりと接客してくれるし、あなたには周りを引き込む華が備わっている。どこに出しても恥ずかしくない私の自慢の娘なのよ。是非、来てくれないかしら」


そう言って頼み込まれると嫌とは言えない。


お店にいる間はママにも随分世話になった。


日にちを聞くと、ちょうど一ヵ月後の12月1日だと言う。


「ただとは言わないわ。ちゃんとお礼もするし」


お金なんかどうでもいいの。


ただ…二年も現役を退いていた私に、そんな大役が務まるのかどうか。


それが不安だった。


「で、返事を先延ばしに?」


淡いベージュ色のベースを塗って、爪の先に赤い線を入れながら萌羽は眉をしかめた。


「一緒に行きましょうよ。姉さんが一緒だと心強いわ」と萌羽は真剣。


「はみ出さないでよ?パーティーなんて華やかなところ、今更興味ないし。でもあんたはやけに真剣ねぇ」


「だって。そのパーティー、神流会長のご子息も出席なのよ!?狙わない独身女が居ないわけないじゃない!」


萌羽は、私の指を握る手にちょっと力を入れた。