それからも萌羽のペースに流されっぱなしで、結局ジル・スチュアートのトレンチコートに、プラダのブーツが取り出され、床に並べられた。
萌羽はマダム・バタフライに来る前、銀座の高級ブティックで働いていただけあってセンスがいい。
シンプルなのに、洗練されている気がした。
「ネイルもしなきゃね♪」と萌羽はまるで自分のことのように楽しそうだった。
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「でも、いいなぁ。そんなイケメンとデートなんてぇ。非現実的よねぇ」と私の指にマニキュアを塗りながら、萌羽が唇を尖らせる。
「どこ連れてってくれるんだろうね?」
「さぁ。でも25よ?そんなに大したお店じゃないでしょう」
「でも恵比寿のホテルのバーに来てたんでしょう?しかもそのままお泊り!リッチじゃない♪案外、どこかの御曹司だったりして」
「まさか。そんな風には見えなかったわよ?」
「御曹司と言えば、マダム・バタフライのママから聞いた?今度、神流グループの創業80周年パーティーのこと」
「パーティー…?」
言われて思い出した。
そう言えばママから三日ほど前に電話があったのだ。
ご贔屓にして頂いているお得意様の神流会長が主催のパーティーで、堅苦しくしたくないために、マダム・バタフライのホステス何人かを会場の華にしたいと、ありがたい申し出があったそうだ。
もちろん、あの紳士的な神流会長の案ではなく、そのご子息の何気ない一言から役員たちが「面白そうだ」と言い出したから。
パーティーには神流グループの役員方はもちろん、その他の財界人や政界の人たちも呼ばれているそうで、固くなりがちな会社のパーティーを、話上手なホステスたちを交えて盛り上げようという話である。



