「無理よ。胸元が開きすぎてる」
「それがいいんじゃない。姉さん綺麗な胸してるんだから、見せなさいよ~」
「見せっ!?そんなのこっちが誘ってるみたいじゃない」
「そんなこと無いわよ~。若い女にはない大人の色香を見せ付けてやりなさい」
はい、着て!と、萌羽は今着ているゆるめの白いニットを脱がせようとする。
「わっ!分かったわよ!自分で着ます!」
結局強引な萌羽に押し切られ、私はそのニットに腕を通した。
姿見に自分を映し出してみる。
「うーん……」
「あらっ♪いいじゃなぁい♪ちらっと見える谷間がセクシー」
「見苦しくない?30のおばさんよ?」
「何言ってンの。姉さんは綺麗よ。自信持ちなさいって」ポンと肩を叩かれ、それでも私は鏡に映した自分と睨めっこ。
その背後で萌羽はご機嫌にボトムを選んでいる。
彼女が手に取ったのは、程よく色落ちしたアルマーニのジーンズ。
「ベルトはこれでしょう??バッグはこれかな?」少し派手目なデザインの黒いベルトと、赤い色のケリーバッグも手にしていた。
「う゛~ん、この服にケリーは微妙だわね。これはどうかしら?」
萌羽はもう片方の手にルイ・ヴィトンのモノグラム・ヴェルニ、ローズウッドアベニューのバッグを持ち、真剣な顔で私の前に掲げた。
萌羽は私を着せ替え人形にして楽しんでいるに違いない。
デートするのは私なのに、私以上にはしゃいでいる。
まぁ夫が居る身で若い男とデートなんて、その話を聞くだけで非現実的よね。
萌羽の手にしていたバッグを受け取り、でも真っ赤なエナメルがこのところ私には派手な気がして使っていなかったものだ。
萌羽は納得したように大きく頷くと、
「うん♪これがいいわ」と満足そうに言ってバッグを私に押し付けた。



