これきり…
私があのバーに行かない限り、もう彼とは会うことはないだろう。
いや、会ってはいけないのだ。
そう思って立ち去ろうとしていたけれど、意思とは反対に私はベッドに逆戻りしていた。
バッグから赤い口紅を取り出し、キャップを開ける。
その口紅の先をベッドの白いシーツに走らせた。
090-XXXX-XXXX
yukari_F*******@*********
書いてから、「何をやってるのかしら」と冷静な自分を取り戻したが、その文字を消すことはなかった。
口紅をバッグに戻すと、私は今度こそ部屋を後にした。
――――
――
ホテルを出て、控えていたタクシーの一台に乗り込み、私は小さく吐息を吐いた。
蒼介は昨日も帰ってこないことが分かっていた。私の外泊には気付かないだろう。
何もなかったとは言え、後ろめたい罪悪感は感じる。
それと同時にシャワーを浴び終えた啓人が、シーツを見てどう思うだろう。
その考えの方が、妙に不安をもたげる。
浅はかなことをした―――
そう思ったけれど、
止められないようのない気持ちは、私の中でどんどん加速しつつある。



