何気なくベッドに視線を落とすと、蝉の抜け殻のような布団が目に入った。
やましいことは何もしてないと言うのに、その痕がやけにいやらしく見える。
シーツにそっと手を這わすと、彼の温もりがほんのり残っていた。
その感触に、私の中に淫らな想像が横切る。
彼の力強い腕に抱かれ、あの薄い唇でキスされ―――
何もかも壊されるように彼に抱かれる自分を。
それは単なる想像ではなく、私の希望。
リアルな温度は、情事の後の予後を匂わせているようで、私は慌てて手を引っ込めた。
こんなところにいつまでも居るのはダメ。
どうにかなってしまいそうだ。
慌てて立ち上がると、私は帰ることを決意した。
バスルームからシャワーの音が洩れ聞こえている。
それすらも、あだめいた音に聞こえて私の耳を刺激する。
私は小ぶりのバッグから財布を取り出した。
こんな豪華なホテルに泊まったことがない。
マダム・バタフライに勤めていたときでさえ、私は枕営業を一度もしたことがない。
ホテルと名のつく場所には恋人としか来たことがなかったのだ。
こんな立派なホテルに一泊するような彼氏は一度もいなかった。
だからこの部屋が一泊幾らするのか皆目検討も付かなかった。
迷った末、私は財布に入っていた万札を全てナイトテーブルの上に置いた。



