「ごめん紫利さん、仕事入っちまった」
啓人は残念そうに眉を寄せた。
「忙しそうね。あなたどんな仕事してるの?」
私の問いかけに、彼は欠伸を漏らしてこちらを見た。
切れ長の瞳の目尻に涙が溜まっている。
やっぱり―――いいオトコ。
涙までセクシーなんだから。
ちょっと見惚れたていたことがいやで、私は彼から慌てて目を逸らした。
「仕事?ん~ふつーの営業よ??」と彼は曖昧に答えた。
営業、と一くくりに説明され、その先を聞き出したかったけれど、それもできそうにない。
仕方なく、
「そ。何だか大変そうね」と返した。
「大変だよ。24時間365日。依頼主もメーカー側も俺の都合なんてお構いなし。おまけに社長秘書もだ」
ぶつぶつ言いながらも彼は口を覆った。
「自分が酒くせぇ」
「私も」
顔を見合わせて、ちょっと笑い合う。
「シャワー浴びてから行くわ。先に使っていい?このまま行ったら村木にまた変に勘ぐられるな」
“村木”……って誰よ…
「ええ。どうぞ。“村木”ってのはよっぽどいい女なのね」
変な妬きもちを焼いている自分が嫌で、私はわざと何でもないように返した。
彼はギシっとベッドを鳴らして立ち上がると、私を半目で見下ろしてきた。口元に薄い笑み。
「あいつは50を過ぎたおっさんだよ」



