私は黙ってグラスに口を付けていると
啓人は突如立ち上がり、財布を取り出した。
中から一万円札を取り出すとテーブルに置く。
「悪りぃけど、俺帰るわ」
「帰るって?……え?来たばっかりなのに?それにこれじゃ多すぎるわ」
突如「帰る」と言いだされて今度は私の方が戸惑った。
何なの―――……この坊やは。
ひたすらに驚いている私に啓人は頬にキス。
「手切れ金……にしちゃ少ないけど、
これで終わり。
足りなかったらまた請求して?」
これで終わり――――……?
本当に
たった一万円ですべてを終わらせるつもり?
私はテーブルに置かれた一万円札と啓人を見比べた。
手切れ金……にしちゃ少なすぎる。
私が失ったものの代償に比べればなんと小さなものか。
けれど
そもそもお金なんて受け取るつもりはなかったし、こうゆう考え、嫌いじゃないわよ?
だって大金をせしめる女なんて誰だってイヤでしょう?
同じだけの罪を背負ったくせに―――ね。
そう
私も同罪なのだ。
「多いぐらいよ」
万札を人差し指と中指に挟んでひらひらさせる。
「あ~あ…お気に入りのおもちゃが壊れちゃったわ」
私はわざと軽口をたたいた。
そうじゃないと
何故だか泣き出しそうになってしまいそうだったから―――



