「……ごめん」
リビングのテーブルで項垂れながら、蒼介は顔を覆った。
ワイシャツから見えた首が、私の知っている状態よりもより一層青白く貧相にこけた気がした。
何だか痛々しい。
私は彼に水の入ったグラスを差し出し、
「いいのよ……」
と苦笑い。
うまく笑えたのかどうかも分からない。
「蒼ちゃん、ちゃんと食べてるの?随分痩せたみたいだけど。
研究は忙しい?」
スーパーのビニール袋から買ってきた食材をテーブルに並べながら聞くと、
「…変らずだよ」
蒼介は水を飲みながら小さく答える。
気詰まりな沈黙が降りてきて、私たちは二人背を向けたまま口を噤んだ。
赤や黄色、色鮮やかなパプリカを取り出して、
いつか二人で美術館で見たゴーギャンの絵を思い出した。
二度目のデートに蒼介が誘ってくれたのだ。
蒼介は美術にとんと疎いのに、それまで懸命に勉強したのだろう。しきりに話題を振ってくれた。
ありがたいことではあったけれど
『私も美術には詳しくないの。でも色使いが綺麗ね』
彼の緊張を解きほぐすように絵画を指差すと、
『付け焼刃の勉強で申し訳ないです……僕はあなたが正直何を好きなのかまだ…知らないので』
恥ずかしそうにうつむいた彼。
『これから知っていけばいいんじゃない?』
二年も前の話なのに、つい最近の思い出として鮮やかによみがえり、私はパプリカを冷蔵庫にしまった。
もう、これから彼の新しい一面を知ることは
ない。



