Addict -中毒-




萌羽のマンションまで帰り、スーツケースの中を片すことなく私はいくつかある和服の中から一着の着物を取り出し、袖を通した。


和服に着替えて、髪もきちんと結って……いつぶりかしらね、こんな風にきっちり着込んだのは。


でも何となく引き締まるこの懐かしい感覚に私は思わず笑った。




「銀の夜の蝶―――か…


あのお坊ちゃんもなかなかうまいこと言うじゃない」





例の恵比寿のホテルの最上階にあるバーで、グラスを拭きながらユウくんが一瞬「おや?」と言う表情をして顔を上げた。


「いらっしゃいませ、お久しぶりです」


「ご無沙汰してます。最近ごたごたがあってなかなかこれなかったの」


「お会いできて光栄ですよ。シャンディガフを?」


ユウくんは私の好みを覚えてくれていたみたいで、そつのない仕草で聞いてくる。


「いいえ、バーボンにするわ。イーグルレアをダブルで」


「かしこまりました」


「ねぇユウくん?彼……啓人とはどうゆう知り合い?」


グラスに琥珀色の液体を注ぎいれているユウくんに聞くと、


ユウくんはうっすら意味深に笑った。




「かつては同じベッドで眠った中ですよ」





……………



「守備範囲広いわね」


苦笑いで何とか答えると


「啓人は私の後輩なんです。


麻雀仲間でもありまして、夜通し麻雀して徹夜して泊めてもらっただけです」


ユウくんは冗談ぽく笑って、グラスを私のテーブルに置く。


「大学?」


「いえ、高校です」


「高校から麻雀覚えて、困ったガキね」そう言ってやると、


ユウくんはふっと笑って


「あいつは昔からクソガキですよ、あなたに度々ご迷惑をお掛けしていることを


私からお詫び申し上げます」丁寧に頭を下げる。


やっぱり―――知ってたのね。


「お詫びだなんて……だったらこの一杯サービスして」


「それは無理です」


考える間もなくはっきりきっぱり言われて私は思わず笑った。


「おもしろいわね、ユウくん」


「誘われてるととって良いですか?」


ユウくんはまたも冗談ぽく笑って、


「いいえ、違うわ」


今度は私がはっきりきっぱり言い切った。


思えば…このバーで誰かと話してこんな風に心穏やかに笑ったのってはじめて。


最初は話し相手なんて要らないって思ってたのに、今はこのくだらない会話が心地良い。