背は低くて華奢な後ろ姿。
見慣れないスーツ姿で、黒い髪もきっちりセットしてあった。
いつも研究疲れでボサボサなのに。
嘘……
何で蒼介が……?
どうしよう…
声を掛けるべきか、でも向こうは出て行った元妻になんて会いたくないだろう。
色々な考えが一瞬で過ぎったけれど、私は
「蒼……」
言いかけて彼を呼び止めた。
振り返った彼は
蒼介ではなかった。
背格好や雰囲気は良く似ているけれど、
別人。
「…あ、すみません……人違いです…」
慌てて頭を下げると、その人違いの彼は「いえ」とだけ言って出国ゲートに向かっていった。
何やってるの、私―――
急に恥ずかしさがこみあげてきて、でもその雰囲気だけが似た彼の姿を
私はどこまでも目で追っていた。
そのときだった。
PPPPP…
携帯がメール受信を報せて、開いたメールを見て私は目を開いた。
From K.K.TokyoNo4…@XXX 20XX,4,15 12:27:16
>>おひっさ~
元気してる??
紫利さんから最近連絡がないから寂しいよ。
宿り木は必要ない?
あのお別れの日からはじめてのメール。
消したはずだけど、アドレスは何となく覚えていた。
それに“宿り木”なんて言葉を最初に出したのはあの男だ。
この何事もなかった気軽な様子は、やはり彼の中で何かが一つ終わったと言う感覚ではなかったのだ。
To K.K.TokyoNo4…@XXX 20XX,4,15 12:31:42
>>今からオーストラリアなの。帰ってその気になったらまたメールするわ。
結局短くそう返して、私は携帯の電源を切った。



