Addict -中毒-




萌羽と大上さんの出会いは、萌羽が銀行のATMに小銭をつまらせたときに、大上さんが必死に機械に入り込んだ小銭を取り出してくれた、とか。


「10円ぐらい、良かったのに」


萌羽はそのことを思い出すと、今でも苦笑。


「いいえ!そうゆうわけには行きません!」


銀行だものね。一円単位の狂いも許されない場所だし、


でもその作業中に二、三会話を交わしその後もまた銀行でちょこちょこ顔を合わせる度に親しくなったらしい。


大上さんは田舎から出てきたようなどこか垢抜けない顔だし、背もそれほど高くない。いかにも真面目そうだ。


でも優しそうで、いつも懸命だ。


それがどこか




蒼介と重なる―――





「待ち合わせは新宿だったでしょう?どうしてうちに?」


「いや!外も暗いし、俺の職場この近くだし!」


大上さんは必死に言い訳。



「バカね、萌羽。大上さんはあんたに早く会いたかったんじゃない?」



私の言葉に大上さんは顔を真っ赤にして俯いた。


「姉さん、からかわないでよ」


萌羽も恥ずかしそうに俯いて、口を尖らせる。



「良かったわね、萌羽。


いい人に巡りあえて」




私は萌羽の髪をそっと撫でると、萌羽はゆっくりと顔を上げた。





男なんてもう要らない、なんて悲しいこと言わないで。


あなたがステキな彼にめぐり合えたこと、私は嬉しいわ。



あなたが幸せそうで、それを知ったら





私も幸せになれる。





そんな意味合いで笑いかけると、萌羽は瞳を揺らがしてまばたきをした。


「姉さん……」


萌羽がまばたきをすると長い睫の先にくっついた水滴が頬を伝った。


「ほら、泣かないの。


せっかく綺麗にメイクしたのに崩れちゃうわ」



私が萌羽の目元を拭うと、萌羽はぎこちなく笑顔を浮かべた。




「姉さん、ありがとう」




そんな心の声が聞こえた気がした。