Addict -中毒-




角度を変える度、息継ぎをするように僅かに唇を離す度


啓人の前髪や、長い睫が私の頬をかすめる。


そのさらりと優しい感触が心地良い。





終わりを告げようとしているのに―――私はこの力強くて優しい


不思議な腕を離したくない。


彼は本気じゃないだろうに


でもこの嘘に




縋りたくなる。








何度目かの口付けが終わり、啓人は名残惜しそうにちょっとだけ顔を遠ざけた。


名残惜しいのは私かもしれない。まだキスの続きをしていたい。


そんな風に思って、それでも私はその考えを振り払うように


「ねぇ何か飲みましょう?」と話題を変えた。


「何が良い?スコッチ?バーボン?それともブランデー?」


そう聞かれて私は啓人の頬に手を這わせた。


「何でもいいわ。あなたと―――ゆっくり話しがしたいから」


啓人の頬は手の感触とは反対に冷たく冷え切っていた。


私の手のひらでその冷え切った頬を温めるように、啓人は私の手を包み込み、


手のひらにキスを落とす。


「風呂あがりにしようぜ。たまには一緒に入ろう?」


お風呂……?私は目をまばたいた。


彼から聞いたはじめての台詞に戸惑いを隠せなかった。


「…その前に…」


またも私の返事を最後まで聞かずして、啓人は私の唇に口付ける。


「入ろうぜ」


「いやよ」


私は啓人の手をぎゅっとつねってちょっと睨みあげた。


「何で?」と啓人は不服そうに唇を尖らせる。


「何でって、お風呂は明るすぎるでしょ?」


「ああ…そう言う意味」


「ほかにどんな理由があるってのよ」


「どんなって泊まっていけないのかな、とか」


私は思わず唇を引き結んだ。





今頃―――


蒼介は二次会に繰り出しているだろう。教授陣たちはそのまま二次会だ。銀座か六本木辺りに行くだろうし。


「恥じらい?可愛いね」


啓人は冗談ぽく笑うと、私の意見を無視して着物の合わせ目に手を入れた。