To 蒼介<0801y.s15b…@xxx> 20XX,01,31 16:32:07
>>具合が悪いのでお先に失礼します。ごめんなさい。
紫利
From 蒼介<0801y.s15b…@xxx> 20XX,0131 16:45:13
>>大丈夫ですか?こちらもそろそろお開きです。
僕はこの後教授たちに付き合って二次会に行きます。抜け出せそうにないです。紫利ちゃんに付き添ってあげられないのを申し訳なく思います。ごめんなさい。
To 蒼介<0801y.s15b…@xxx> 20XX,01,31 16:32:07
>>子供じゃないので、なんとでもなります。ありがとう。気をつけて。
何だか私たち“ごめんなさい”の繰り返しだ。
夫婦だって言うのに、謝ってばかり。変なの…
でも
このよそよそしいまでの関係が断ち切られるまであと少し―――
もう少しで―――蒼介もいらない気苦労をしないで済む。
ケータイを閉じて私はエレベーターホールのパネル“昇”ボタンを押した。
エレベーターホールには客は私一人。
会場はお開きだと聞いた。あの産婦人科の教授は会場に戻っただろうか。
戻れるわけない。あんな格好で。いいざまね。
私の乗り込んだエレベーターは会場のある三階を素通りして上へ上へ上昇していく。
音の静かなエレベーターに昇っていると言う感覚はほとんどと言ってなかった。
何だか地に足が着かずふわふわした感じではある。
客室が並ぶ12階に降り立って上質な絨毯を踏みしめても、
1224号室の扉の前に立っても、まるで現実味が湧いてこない。
そう、小説の中の主人公になった気分でいつまでもその感覚が掴めないでいたのだ。
インターホンを押して、中から無言で扉が開き、
挨拶も何もなしにいきなり抱きしめてきた
啓人の力強い腕の中で
彼に抱きしめられて
ようやくそれが現実のものだと気付いた。
「さっきの男誰よ」
啓人が不機嫌そうに聞いてきて、
彼の力強い腕の中で窒息死しそうになりながらもがき、何とか顔を上げると
「…彼は…」と答えようとしたけれど、啓人は私の答えを最後まで聞かずして
突如深い口付けを落としてきた。



