ラウンジでコーヒーをいただきながら、教授はしきりに私の具合を気にしてくる。
「酔いの方はどうですか?」
「ええ、おかげさまで何とか」
心配している態度を見せるけれど、そのくせ
「藤枝教授は羨ましいですね。こんな美人を奥さんに貰って。
しかし彼は研究体質ときている。彼が研究室にこもりきりで寂しくありませんか?」
とさりげなく話題を変えて私と蒼介との仲を探ってくる。
私が退屈している、と勘ぐっているに違いない。
その隙に自分が入り込もうとしているのが目に見えて分かる。
「主人が研究している間旅行をしているので気楽なものです」
当たり障りのない返事を返すと、
「藤枝くんのお母さんが病院に入院なさったと聞きましたが、あそこのお母さん気難しくて大変でしょう?」
と今度は違う話題で気を引いてくる。
「私、疲れているように見えます?」
コーヒーのカップを口に付けて笑うと、
「いや…若いのにわざわざ気苦労をかって…良く出来たお嫁さんだなと思いまして」
教授は言葉を濁して同じようにコーヒーのカップに口を付けた。
私はカップをソーサーに置くと教授を真正面から見据えた。
「教授の奥様も素敵な方ですわ。お子さん二人を立派にお育てになって、その上あなたのことを大変気遣っていらっしゃって」
「え、ええ…まぁ、ありがたいお話しではありますね」
「羨ましいお話しですわ。おしどり夫婦で有名ですものあなた方ご夫婦は」
「そう見えますか―――?」
今度は教授が真剣な表情で聞いてきて、私は目だけを上げて彼を真正面から見た。
「藤枝さん…」
教授もカップをソーサーに置き、何を勘違いしたのか私の隣まで移動してきて、私の手に自分の手をそっと重ねた。
「藤枝さん、私たち夫婦は世間で言ういわゆる仮面夫婦ってやつでね。
外では仲良く振舞っているが、夫婦仲は冷め切っている。
私は―――妻をもう女として見れないんです」



